読書会に向けて、担当する第五章のレジュメを以下に記す。
第五章は何か核心的なことを述べている、というよりは、用語法を整理し、以後の重要な議論の基礎付けを行うことを目的としているように思われる。
1.二種類の区別
- ビデオゲームの記号によって表象される内容は二種類に区別できる。
- 虚構世界とゲームメカニクスの二種類。
- この区別はユール、タヴィナー、マウラなどの先行研究でも論じられていた。
- 本書の独自性は以下の三つである。
① 先行研究で曖昧なまま使われている諸概念を明確に整理すること。
② 意味作用*1の観点からこの二面性を論じること。←最重要
③ 哲学的な議論に接続、もしくは新たに哲学的に基礎づけること。
2.量化のドメイン
例1:我々が「マリオが女性を助けようとしている」というとき、
我々は虚構世界という量化のドメインにコミットしている。
例2:我々が「マリオのライフは三つ残っている」というとき、
我々はゲームメカニクスという量化のドメインにコミットしている。
例:「マリオのライフ」なるものは現実世界には存在しない。
3.用語と表記法の整理
- 虚構世界についての内容:虚構的内容
- ゲームメカニクスについての内容:ゲーム的内容
- 虚構的内容は次のように表記する。〈F:マリオが女性を助けようとしている〉
- ゲーム的内容は次のように表記する。〈G:マリオのライフは三つ残っている〉
4.重ね合わせ
- 1つの記号が虚構的内容とゲーム的内容の両方を表象するときそれは「重ね合わせの状態にある」と呼ぶ。
- 例:ディスプレイ上の≪マリオ≫という記号は〈F:マリオ〉と〈G:マリオ〉の両方を表象している。
- 重ね合わせが行われる理由はいくつかある。
① ゲーム的記号の個別化のため(ただのドットより人の形の方が分かり易い)
② 虚構的内容によってゲーム的内容を類比的に推測させる(第八章の階段)
③ ゲームメカニクスをシミュレーションとして機能させる(原子力発電所)
- 重ね合わせにおける虚構的内容とゲーム的内容には、本質的な結びつきはない。
- では、なぜそれを結び付けてしまうのか、という点については第十二章 p302~ 写実性と有契性の話から語られる。
※第4節「区別の正当化」は、二種類の意味論を区別する根拠である「文脈」の存在について確認している節であり、ある意味で自明のことであるため省略している。
これを自明のものとするのは「ゲーマーに共有された直観」でしかないことは、既にp18で述べられている。
*1:ある記号の表現と内容が結びつけられる過程で意味が生じるプロセスのこと。本書p43参照。