らいたーずのーと2

旅行、自転車、現代美術、食、歴史、文学、哲学など雑多に綴る。

松永伸司『ビデオゲームの美学』(慶応義塾大学出版、2018)読書会用 第五章レジュメ

ビデオゲームの美学

ビデオゲームの美学

 

 

読書会に向けて、担当する第五章のレジュメを以下に記す。

第五章は何か核心的なことを述べている、というよりは、用語法を整理し、以後の重要な議論の基礎付けを行うことを目的としているように思われる。

 

1.二種類の区別

  • ビデオゲームの記号によって表象される内容は二種類に区別できる。
  • 虚構世界とゲームメカニクスの二種類。
  • この区別はユール、タヴィナー、マウラなどの先行研究でも論じられていた。
  • 本書の独自性は以下の三つである。

   ① 先行研究で曖昧なまま使われている諸概念を明確に整理すること。

   ② 意味作用*1の観点からこの二面性を論じること。←最重要

   ③ 哲学的な議論に接続、もしくは新たに哲学的に基礎づけること。

 

2.量化のドメイン

  •  二種類の意味論のちがいは量化のドメインのちがいである。
  • 量化のドメインとは「特定の文脈で我々が存在するとみなしている対象の集合」である。

   例1:我々が「マリオが女性を助けようとしている」というとき、

      我々は虚構世界という量化のドメインにコミットしている。

   例2:我々が「マリオのライフは三つ残っている」というとき、

      我々はゲームメカニクスという量化のドメインにコミットしている。

  •  ゲームメカニクスという量化のドメインは「ある意味では現実的だが、ある意味では現実的ではない」→第七章 p200~

   例:「マリオのライフ」なるものは現実世界には存在しない。

 

3.用語と表記法の整理

  • 虚構世界についての内容:虚構的内容
  • ゲームメカニクスについての内容:ゲーム的内容
  • 虚構的内容は次のように表記する。〈F:マリオが女性を助けようとしている〉
  • ゲーム的内容は次のように表記する。〈G:マリオのライフは三つ残っている〉

 

4.重ね合わせ

  • 1つの記号が虚構的内容とゲーム的内容の両方を表象するときそれは「重ね合わせの状態にある」と呼ぶ。
  • 例:ディスプレイ上の≪マリオ≫という記号は〈F:マリオ〉と〈G:マリオ〉の両方を表象している。
  • 重ね合わせが行われる理由はいくつかある。 

   ① ゲーム的記号の個別化のため(ただのドットより人の形の方が分かり易い)

   ② 虚構的内容によってゲーム的内容を類比的に推測させる(第八章の階段)

   ③ ゲームメカニクスをシミュレーションとして機能させる(原子力発電所

  • 重ね合わせにおける虚構的内容とゲーム的内容には、本質的な結びつきはない。
  • では、なぜそれを結び付けてしまうのか、という点については第十二章 p302~ 写実性と有契性の話から語られる。

 

※第4節「区別の正当化」は、二種類の意味論を区別する根拠である「文脈」の存在について確認している節であり、ある意味で自明のことであるため省略している。

これを自明のものとするのは「ゲーマーに共有された直観」でしかないことは、既にp18で述べられている。

*1:ある記号の表現と内容が結びつけられる過程で意味が生じるプロセスのこと。本書p43参照。

ツール・ド・ワロニー2017 第3ステージ

ラスト1.5kmが、平均勾配11%という「ユイの壁」に匹敵する何度を誇る激坂「ウッファリーズ」。リエージュ~バストーニュ~リエージュでも使われている坂なんだっけ? さすがアルデンヌ・クラシックの舞台ワロニー地域である。

 

そして、そんな激坂を制して勝利したのが、今年フレッシュ・ワロンヌ3位の好成績を叩き出したBMCのディラン・トゥーンス。今年まだ25歳の若者である。すでに第2ステージで総合リーダーになっていたため、リーダージャージを着用しての勝利である。このまま総合優勝を決めてしまうのだろうか。フレッシュ・ワロンヌの3位がフロックでないことを証明してくれた。

 

 

途中まで惜しい走りをしていたのがアレクシー・グジャール。2015年のブエルタでの劇的な逃げ切り勝利以降、期待はされていたものの結局2年間まるごと勝利を掴めずにいる彼。久々の勝利かと期待したが、さすがにあの激坂を乗り越えることはできなかった。かつてはカルメジャーヌに羨まれるほどの注目を浴びたグジャール。バルギルのように、復活をすることができるか。

 

 

ちなみにこのツール・ド・ワロニー、第1ステージではベンジャミン・トマが勝利している。ダンケルク3日間レースに次ぐ今期2度目の勝利である。彼が所属する陸軍チームことエキップシクリズム・アルメ・ド・テールは、今年なんと17勝目。昨年は3勝。2013年以来4勝しかしていないチームが、である。何たる躍進。だけどこういうので調子に乗って昇格すると大体失敗するイメージがあるので、彼らはこのままコンチネンタルで勝利を稼いでいってもらいたい気分である。

 

 

ツール・ド・ワロニーは残り2ステージ。生で見るかは微妙だが、最後まで注目していきたいと思う。

ベルギー 奇想の系譜展

先日のバベルの塔展に続き、ヒロニムス・ボスやピーテル・ブリューゲルがフューチャーされた作品展。しかし後半からは20世紀前後の作品も多く展示され、バベルの塔と連続性を持ちながらも、また新たな魅力を発見できる作品展だった。

 

バベルの塔展で見て好きだったボスの「聖クリストファ」がなかったのは残念。しかしボスの「トゥヌグダルスの幻視」は迫力満点。入口付近にあった、同作品の動画版も、音楽と合わせ絶妙な不気味さを醸し出しており、一見の価値あり。

また、同じく入口に用意された、ヤン・ファーブルの「フランダースの戦士」も、何とも言えぬ迫力があり時間をかけて様々な角度から眺められる良い作品だった(終盤のファーブルの作品はあまり興味をもてなかったが、このフランダースの戦士は良かった)。

 

そして個人的に最も、期待以上に良かったのが、ヴァレリウス・サードレールの「フランドルの雪」と、ウィリアム・ドグーヴ・ド・ヌンクの「運河」「黒鳥」といった、20世紀前半の作品たちであった。前者はカンヴァスの3分の1以上を占める空の蒼色の美しさ、そして後者はビリジアンブルーの得も言われぬ感傷的な美しさが印象的だった。「黒鳥」のアイフォンケースが売っていたのでつい買ってしまったほどだ。普段そういうのは一切買わないというのに。

 

まあ、そもそも自分が風景画が好きというのもあるのだけれど。ボスやボス・リバイバルの作品群も、奇妙なモンスターたち以上に、その背景の不気味さをもった遠景にこそ惹かれる部分があるので(「トゥヌグダルスの幻視」背景の燃える家とか、今回はなかったけどボスの「聖クリストファ」の遠景の廃墟に佇む巨大な怪人とか)。

 

 

期待せずに行ったが、想像以上に楽しめた奇想の系譜展。

おすすめである。

カリフォルニア・チルドレンの活躍

ツアー・オブ・カリフォルニアは、若手の登竜門となりつつある。以前からか?

 

たとえば昨年、新人賞2位となったタオ・ゲオゲガンハートは、先日のハンマーシリーズで活躍し、注目を集めた。今年のカリフォルニアでも、新人賞を巡る激しい戦いを繰り広げた。

昨年の新人賞1位だったネイルソン・パウレスは、まだ20歳と若くプロコン以上のチームへの移籍を行わなかったため、今年のカリフォルニアには出場できなかったが、先日のアメリカ選手権U23部門でロードレースチャンピオンに輝いた。

昨年のカリフォルニア新人賞は上位3名がアクソン・ハーゲンベルマンス所属だった。3位だったルーベン・ゲレイロも、現在はトレック・セガフレードで活躍している。

 

さらに、今年カリフォルニアで山岳賞を獲得したダニエルアレクサンデル・ハラミーリョも、先日のツアー・オブ・ハンガリーで総合優勝を果たす。彼もまだ26歳と若いコロンビア人であり、今後の活躍も期待できる選手である。

 

ツアー・オブ・カリフォルニアは、今年からワールドツアークラスに昇格し、ジェリー・ベリーとラリー・サイクリングの例外を除き、原則として地元コンチネンタルチームの参加ができなくなった。昨年あれだけ活躍したアクソンですら。

だがそれでも、今年ラリーのエヴァン・ハフマン(昨年山岳賞)がステージ2勝するなど、やはりワールドツアーチーム以外が活躍できる環境であり続けている。

 

ワールドツアーチームでも、ジョージ・ベネットという、新しい才能の開花を見ることもできた。来年も、注目すべきレースであるのは間違いない。

ケネス・ロナーガン監督「マンチェスター・バイ・ザ・シー」

主演:ケイシー・アフレックミシェル・ウィリアムズ

 

 

あらすじ

ボストンで便利屋として働くリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)は、ある冬の日、兄の訃報を受け取った。

地元のマンチェスター・バイ・ザ・シーに戻った彼は、兄の遺言により、甥のパトリック(ルーカス・ヘッジス)の後見人となるよう伝えられる。

パトリックとの交流を通じ、彼を助けたいという思いも育まれていくものの、リーには、この町に残り続けることのできない理由があった。

それは、彼がこの町で経験した、ある辛い過去であった。

 

 

感想

登場する人物が皆、微妙な距離感をもつ間柄であるのが印象的。

死んだ兄の友人、兄の息子、別れた元妻(ミシェル・ウィリアムズ)、さらにはパトリックと彼が幼い頃から会っていない母・・・互いに互いを愛そうとはするものの、うまくいかない、そんな連続である。

 

それでもラストで、主人公リーが笑顔になるシーンもあり、そこが感動的だった。

 

 

全体的なテンポは、速くもなく遅くもなく。

感想を見てみると、途中で寝てしまった、という人もいたようだが、結構ポンポン進む印象だった。

その中でも、パトリックが「写真」を見るシーンで異様なほどにウェイトがかかる演出と、元妻との再会シーンで目まぐるしく視点が変わる演出は、その一定の店舗に対する大きな変化として現れ、彼らの心情を表現する絶妙な演出だったように思う。

 

 

予告編で流れたテーマ曲が、結局最後まで流れなかったように感じたのだけれど、気のせいか? あれ、凄く良かったんだけどなぁ(あれを聞きたいがために観たようなもの)。

 

 

ちなみに、テーマとしては、「癒せない傷もある、それでも生きていく」というもの。

「立ち向かう」じゃなく、「逃げてもいいんだ」というメッセージである点で、ハリウッドとしては珍しいんだとか。

青森旅行「三内丸山遺跡・県立美術館・十二湖/青池」

6月15日の夜から18日の朝にかけて、青森に旅行に行きました。

ここ最近毎月のようにどこかに出かけているので、できるだけ経費削減を、ということで今回は高速バスによる移動を行ったほか、青森では2名素泊まり5000円の安いビジネスホテルを利用。

ホテルは問題なかったが、高速バスはやはり身体に厳しい・・・。

 

 

実質的な観光は16日(金)と17日(土)の2日間。

 

1日目は朝食を青森市内の古川市場 のっけ丼 青森魚菜センター本店にて。

1300円で10枚綴りの食券を購入し、ご飯(食券1枚、大盛は2枚)のほか各種刺身等を食券で選び自由に載せていくスタイル。

肉もあるがやはりここは魚だけで・・・鯛やサーモンなどを始め、トロは2枚、ほたては3枚ってな具合で選んでいく。店によってネギトロが1枚だったり2枚だったりするなど戦略的に選ぶのが肝要。

選び方によってはめっちゃ贅沢な丼が完成する。ただし、欲張りすぎて朝からお腹いっぱいになり過ぎたのはちょっと後悔。味噌汁も食券1枚で購入できるのだが、刺身を優先してそっちばっかり集めてしまった。

 

その後はバスで目的地の三内丸山遺跡へ。

丁度、市内の小学校の行事と重なっていたようで、大量の小学生と共に満員状態で向かう。

外国人の方が多かった。若い二人組の1人は腕に「継続は力なり」のタトゥー。

外国人の老夫妻は小学生たちと仲良くなり、小学生が英語で自己紹介したりしていた。

 

 

三内丸山遺跡縄文時代の遺跡が発掘され、それを復元したものなどが展示されている。

両親が昔旅行で訪れて良かったよと言っていたので、ずっと行きたいと思っていた。

 

なんと、入場料は無料。ガイドもボランティアの人が無料で請け負ってくれる。

そのくせ中は、結構しっかりとした復元遺跡が残っていて見ごたえもバッチリ。

かなりおすすめなスポットである。

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有名な櫓?見張り台?空も雨予報があったにも関わらずすっかりと晴れて気持ち良くなった。

 

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高床式の建物のほか、数種類のバージョンで復元された「竪穴式住居」。

竪穴住居は中に入ることもできる。

 

 

そして、三内丸山遺跡からは徒歩で県立美術館に向かうことができる。

この県立美術館、現代美術を集めて特集をしており、以前はUFOの墜落などもあったらしい(謎)

 

また、青森出身の現代美術家奈良 美智の作品も常設されているとのこと。

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こちらは屋外から無料で行けるゾーンにある、奈良氏の作品「あおもり犬」。

 

奈良氏と言えば目つきの悪い少女の絵なんかが有名だが、今回の展示の中では、おそらく「アオモリ・ヒュッテ」と題された、小部屋の展示が印象的だった。

小さな小部屋の中に少女が3人、うつ伏せで寝転んで本を読んでいる?部屋の中にはまばらに花が咲いており、鑑賞者は部屋の外側の窓からこれを見ることができる。

 

窓だけじゃなく、壁にも無数の小さな穴が開いており、そこから「覗き見る」こともできる。目線の高さの小さな穴から覗くと3人の少女のうちの1人だけをちょうど視界に納めることができる。少女たちの顔は隠されている。

 

この展示の外側には狭い通路が。そこには鏡があり、もしかしたら・・・これも作品の一部なのかもしれない、と思ってしまう。小部屋を回り込むようにして隘路に向かう鑑賞者を阻む鏡・・・ちなみにその通路は袋小路になっているが、その足元には消えかけた「この先立ち入り禁止」の文字が。立ち入り禁止も何も、すぐ袋小路なんだけどね。

この文字ももしかしたらある意味では、作品の一部なのかもしれない。それは深読みし過ぎか?

この展示は部屋の中に入ることはできないが、ほかにも小部屋風の展示はあり、そちらは中に入ることができる。内側と外側とで鑑賞の際の雰囲気が変わる、これも面白い展示だった。

 

 

特集展示もやっており、そちらでは岡本光博などの作品も。

いわゆる3.11芸術の展示もあったが、3.11に関して納得のいくイメージをまだ自分の中で持てていないので、それらに対する適正な評価は行えないでいる。

ただ、3.11をテーマにした映像作品はあり、そちらはおそらく廃墟と化したフクシマの映像だったと思うのだが、最初チェルノブイリに見えて、そのあとでフクシマであると気づくような映像だった。

フクシマがチェルノブイリ化している現実を十分に理解していない側を静かに糾弾するような作りに見えて、それは少しだけ興味深かった。

 

夕食はホテルの近くのお寿司屋さん「一八寿司」へ。

値段は決して安くはないが、非常に美味だった。とくに穴子が、しっかりと焙られており、タレに頼らない、食べごたえのあるモノだった。

 

 

 

 

17日(土)はリゾートしらかみに乗って十二湖駅へ。

途中、千畳敷と呼ばれる海岸で15分ほどの降車休憩が入る。

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潮が引いており独特な風景が広がる。

 

リゾートしらかみは先頭車両が自由に使える展望デッキとなっており、そこからの眺めは非常に魅力的。

窓も大きく写真も撮りやすかった。

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十二湖に着いたあとはバスで十二湖奥へ。

噂の「青池」に到着する。

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噂通りの、インクを流し込んだかのような青色の池。

水も透き通っており、水底に沈んだ丸太の姿もはっきりと映していた。

 

こういうスポットは大体、雑誌に載っている写真よりも実物は劣って見える「がっかり観光地」が多いのだが、ここは十分に美しかった。おすすめできる場所である。

 

ほか、名前通り無数の湖・池に出会えるのだが、全体的にこじんまりとしたエリアなので、徒歩で十分巡り切ることができる。

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グレートキャニオンの日本版(笑)らしい「日本キャニオン」を眺めることもできる。

帰りはバスを使わず、ひたすら徒歩で下山した。

 

 

帰りのリゾートしらかみからの眺め。

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どうしても光の問題でよく見えないが、こういう、海と水田が非常に近いところにある風景はとても好き。

 

2日目の夕食は駅の近くの普通の焼肉屋さんに。

普通の焼肉屋さんだったけれど、めっちゃ安かったけれど、普通においしかった。

とくにホタテなどの海鮮焼きが美味しかったのは、さすが青森といったところなのだろうか。

 

 

あっという間の旅行だったが、濃い時間が過ごせるいい旅行だった。

次は山口の、角島や萩を巡る旅行をしたい。

ドゥニ・ビルヌーブ監督「メッセージ」

主演:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー

 

 

あらすじ

ある日、世界各地に出現した謎の宇宙船。言語学者のルイーズ・バンクス(エイミー・アダムス)は、物理学者のイアン・ドネリー(ジェレミー・レナー)と共に、エイリアンとの意思疎通を図るための役目を担うことに。

人類の常識が通用しない彼らの言語を学ぶうちに、ルイーズに少しずつ変化が訪れる。

 

 

感想

原作のテッド・チャン『あなたの人生の物語』が好きだったために観に行く。

結構原作を忠実に映像化しており、クライマックスの展開に関しては、SFエンタテインメントとして面白くしようという工夫が見られる。

だが、結果として、原作のテーマに関しても中途半端、映画としての面白さに関しても中途半端、な出来になってしまった感は否めない。

 

 

以下、映画・原作ともにネタバレを扱うため注意。

 

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